「世界の境界に立つことはできない。たとえば地面に円を描いてみる。その境界を跨いで立つことはもちろんできる。それと同じように、世界の内側と外側に同時に存在することが論理的には不可能でないように思うかもしれない。たとえば神をそのような存在として考えた人はいただろう。だけどそれは無理だ。世界の境界線上に立つというのは地平線の上に立つこと、あるいは虹の根元に辿り着くことと同じような不合理だ。

君は世界の果てに行きたいという。しかしそんなものは存在しない。君はどこか別の場所へ。どこでもない場所へ行きたいだけだろう? それはつまり自己消滅願望以外の何でもない。どうして君はそれは神秘主義もどきにこしらえずにいられないんだ? 早く死ねば良いじゃないか。

そうだね、生きるのも死ぬのも嫌だと君は言う。もちろんそれは駄々をこねているようでいて、全く正当な主張だ。好きでこの世界に生まれたわけじゃないんだから。それなのに生きるのをやめるのに大きな苦痛と恐怖を伴わなければならないという理不尽。それだけで世界は憎むに値する。

君は死にたい死にたい言い続けていつか死ねば良い。それしか言うことはない。あるいは生になんらかの慰めを見出すが良い。君はニヒリストであることをやめることはできないだろうが、ニヒリストであることをしばらく忘れることはできるかもしれないから」

コミティアに出す小説の一節)